吉田一郎不可触世界


「あぱんだ」 吉田一郎による全曲解説

中学1年生の時か、IBM社のパソコンを父に買ってもらってから、それを使った作曲に夢中になった。以来、個人練習と称して貸しスタジオに居座る習慣ができた。気分に任せ、何かしら楽器を触って、とにかくフレーズを作って。で、できたネタ達を日記のように日付を打って保存する。A4のメモ用紙の束が沢山たまって、ハードディスクがいっぱいになる。それを繋ぎ合わせて、曲にする。
反面、歌詞は30歳を過ぎるまで全然書けなかった。というよりも20代までは書けども書けども自分の中でハマらなかった。グッとこなかった。
そういう理由で、楽曲によっては15歳の時に作ったメロディーに31歳で書いた歌詞がのっているモノがある。このアルバムはそういうアルバムです。

ルール

私の日常においての「強いる」について唄った曲。
作品集をCDにしようと決めた2014年夏、アルバムの1曲目に配置されるであろう曲を意識して作った。ギターフレーズは1997年11月6日に作ったと記録あり。歌詞は新宿の喫茶室ルノアールで30分位で書いた。

見慣れた街

私が少年時代を過ごしたベッドタウンについて唄った。
ピアノのフレーズが最初にできて、そこから膨らましていった。曲途中、吹き荒れる暴風の中、聞こえてくるトランペットソロはベースの音を2オクターブ上げて収録したもの。卒業後ほどなく再会した中学校の同窓生らが、自慢げに中古のセルシオに乗ってコンビニでたむろしている風景を思い出しながら作った曲。

ピザトースト

ゾンビ映画の曲。ロバート・デ・ニーロ扮するフランケンシュタインがジェイソンを一刀両断にし、フレディを無視し、バタリアン達をなぎ倒し、ヒロインを助けるという事実無根の私的妄想を唄った。当初、出来上がったアルバムをまず向井氏に聞いてもらったのだが、この曲だけ「作り直し」と言われ大突貫工事の末に出来た曲。LEO今井氏にシャー!!というシンセサイザーと私のラップのお供&バッキングボーカルを依頼。レコーディング現場で、ああしよう!こうしよう!と盛り上がりながら作りあげた作品。

たまプラーザ

2012年閉園した、横浜市のたまプラーザ東急百貨店の屋上にあった青空遊園地「スカイランド」とその横のペット売場についての唄。打ち捨てられた廃墟のような園内の風景や、ペット売場で泳ぐミドリガメ、さえずり続けるセキセイインコ達。そして迎えた閉園日。あいにくの雨で営業最終日にもかかわらず雨天閉鎖、誰にも看取られずに閉園した遊園地を想って書いた曲。

法螺

「ほら」と読む。ほら貝の法螺。ほら吹きの法螺。
私の中では90年代にオンワードの テレビCMで辰巳琢郎と樋口可南子が見せた思わせぶりなセリフまわしを勝手なイメージで思い出し、勘で作ったシンセサウンドだ。とある朝、目覚めたばかりの寝起き声で寝ぼけたラップ、直前まで見ていた重めのストーリーの夢をどうにも思い出せなかったので、どうにか思い出しながら書いたチグハグな記憶を歌詞にした。2012年1月13日朝のメモによる。そういう曲。

眼と眼

獰猛な感情を押し込めた動物の日常を唄った曲。
曲序盤からのFMシンセサウンドとシンセベース、曲途中から入ってくるFENDERプレシジョンベース、ティンパニのドーンドーンドーンという爆発音、それぞれの絡み合いを考えて作ったのを記憶している。
ボッパボッパボッパボッパというリズムにのせて唄う「そんなの俺知らねえよ」という気持ちを書いた歌詞は#1ルールと同じく新宿ルノアールで書いた。2013年10月当初ギターアルペジオから作った曲。

暗渠

「あんきょ」と読む。上下水道整備、宅地造成、区画整理などの経緯で地下に隠された川。
私が禁煙中、フツフツと浮かんできた妄想をこんこんと流れる地下河川に溶かし込むつもりで書いた曲。スタインバーガー社製ベースの粘っこいフレーズに、パラパラを踊っていそうな軽薄なシンセサイザーサウンドを絡めた。ギターソロはファンクバンドCAMEOを意識しつつ勘で作った。歌詞、ラップは自分の妄想を切々と語る男を意識した記憶。

洗濯

昭和30年代に建てられた団地のベランダ、多摩川沿いの夕方の景色を眺めながら、そして泣き言をこぼす、という架空の設定で唄った曲。 夏のマラソン大会の後に感じるヘロヘロな倦怠感をゼリー状のぶよぶよに固めたようなサウンドを目指して作った。ウッドベースやドラムマシンはヘロヘロに疲れきった人が弾いてる感じを出す為、床に寝ながら録音した記憶がある。歌詞は2012年7月2日多摩川河川敷でのバーベキューの帰り道に小田急線の車内で書いたと記録してある。

あぱんだ

Άπαντα 【ギリシャ語。英訳complete works(全集、完本、全作品)
対象物において全て情報が完璧に記載されている書、網羅した本】の意。あぱんだ、という言葉の響き、そしてその意味に魅せられアルバムタイトル曲とした。YAMAHA社の名器DX7の電子ピアノサウンド、エレキアップライトベースをサンプリングしてブツ切りにした音。無機質なサウンドの有機的な集合体というテーマで作った曲。地鳴りの音はベース音を2オクターブ下げる加工をした。水のしたたる音は、いつもの貸しスタジオのトイレにて貯水タンクにマイクを向けて録音したもの。どうしようもなくドキドキする刺激的な気持ちを表現したかったし、できた。

燕の啼く海

ハマる歌詞がいよいよ書けず悶々としていた2012年8月31日29歳の時に作った歌詞の無い曲。燕が空を滑空していて。で、その身をひるがえしたと思ったら、また凄いスピードで何処かへ消えて行く。そんな燕の視界を想像して作ったギターリフとベースラインを中心に膨らませた記憶がある。ビーム光線のように飛ぶ燕の直線的曲線の軌跡は言葉にならなかった。夏休みの終わりの日、爽快感とうねりを封じ込めた曲。